バスケットボールのスコア、得点のスコアリングだけでなく、アシスト、リバウンド、スチール、ファウル、フリースロー、ターンオーバー等のプレーを入力し、STATS / スタッツ(統計データ)として記録するためのサイトです。

宮地陽子のスタッツ四方山話・第1回 ウォリアーズのデスラインナップ

 アメリカを拠点に、バスケットボールライターとして活躍中の宮地陽子さんのコラムをお届けします。第1回目は ウォリアーズのデスラインナップ です。
宮地陽子さんの略歴、スタッツの解説を巻末に掲載しています。こちらもご覧下さい。


 NBAファンの間で『デスラインナップ(死のラインナップ)』と呼ばれているラインナップがある。15-16シーズンに、NBA最多勝利の73勝をあげ、NBAファイナルではクリーブランド・キャバリアーズに敗れたものの、シーズン通してリーグを圧倒していたゴールデンステイト・ウォリアーズの必殺ラインナップだ。ウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーは、このラインナップを試合の流れを変えたいときや、勝負をかけたい場面で使っていた。具体的にはステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、アンドレ・イグダーラ、ハリソン・バーンズ、ドレイモンド・グリーンの5人。通常のスターティング・ラインナップから、センターのアンドリュー・ボーガットが抜け、かわりにスモールフォワードのイグダーラを加えたセンター抜きのラインナップだ。
このラインナップがどれだけ相手を圧倒していたかを表すときによく使われるのが、ネット・レーティング(NetRtg)というスタッツだ。名前だけ聞くと難しく思えるかもしれないが、実はとても単純なスタッツだ。簡単に言うと、特定のラインナップや特定の選手が試合に出ている間の得失点差のこと。比較しやすいように、100ポゼッションあたりに換算されている。

 つまり、こういうことだ。
*オフェンシブ・レーティング(OffRtg)=100ポゼッションあたりの得点
*ディフェンシブ・レーティング(DefRtg)=相手の100ポゼッションあたりの失点
*ネット・レーティング(NetRtg)=OffRtg-DefRtg

 ウォリアーズの『デスラインナップ』が15-16シーズンのレギュラーシーズン中に記録したネット・レーティングは+47.0点(*1)。これはシーズン通して80分以上使われたラインナップとしてはリーグ最多だった。73勝をあげたウォリアーズのチーム全体でのネット・レーティングは+11.6点だったのだから、このラインナップがどれだけ圧倒的な存在だったがわかる。オフェンスでは全員が外からシュートを打つことができるためフロアのスペースを広く使うことができ、ディフェンスではスイッチでマークを代わることができるのが強みだ。
もっとも、いくらネット・レーティングがよく、相手を圧倒できるラインナップだからといって、長く使えばいいというものでもない。長く使いすぎると逆効果になることもあるからだ。そこはスタッツだけに頼るのではなく、コーチの判断力が試されるところでもある。
カーHCは、このラインナップを長い時間使うと、相手のビッグマンとマッチアップすることになるハリソン・バーンズやドレイモンド・グリーンの負担が大きくなりすぎるため、一度に5分をめどに起用するようにしていたという。実際、シーズン通してこのラインナップが起用されたのは37試合で、合計172分。1試合平均で5分弱だった。

 それだけレギュラーシーズン中に効果的だった『デスラインナップ』だが、プレイオフでは一転してうまくいかない試合が続いた。プレイオフ17試合、合計125分間でのネット・レーティングは-5.3点だったのだ(*2)
もっとも最初の2ラウンドは、まだ効果を発揮していた。1回戦(対ロケッツ)では+41点、カンファレンス準決勝(対ブレイザーズ)では+32.4点のネット・レーティングだった。ただし、カリーの故障もあって、使われたのは2ラウンド合計で13分だけだった。
『デスラインナップ』が、ウォリアーズの武器とならなくなったのは、カンファレンス決勝の対オクラホマシティ・サンダーのシリーズからだった。第1戦から第4戦の4試合で、『デスラインナップ』のネット・レーティングは-35.3点だったのだ。それだけではなかった。サンダーが対抗して使ってきたセンター抜きのラインナップ(ラッセル・ウェストブルック、ディオン・ウェイターズ、アンドレ・ロバーソン、ケビン・デュラント、サージ・イバカ)に圧倒されていた。
その結果、ウォリアーズは1勝3敗と、後がない劣勢に追い込まれた。
そこで、カーHCは、第5戦ではあえて『デスラインナップ』をほぼ封印し、リバウンドを取れるラインナップを優先。これが功を奏して勝利をあげた。
とはいえ、カーHCは『デスラインナップ』を完全に捨てたわけでもなかった。「このシリーズであのラインナップがうまく機能するときがあると思っている」と言い続け、実際、その言葉通りに第6戦では11分起用し、ネット・レーティングは+54.7点と大成功をおさめている。第7戦でも12分起用し、第6戦ほど圧倒的ではなかったが、プラスの数字(+6.3)をあげている。そして、ウォリアーズは第5戦、第6戦、第7戦と3連勝し、NBAファイナルに駒を進めたのだった。
スタッツは決して万能ではない。レギュラーシーズン中に『デスラインナップ』と呼ばれるほど成功を収めていても、シリーズ制のプレイオフで同じ成果をあげるとは限らない。それでも、スタッツを元にして、うまくいく理由や、逆にうまくいかない理由を考えると先の道が見えてくる。なくてはならない重宝な道具だからこそ、その使い方にこそ、コーチの才覚やセンスが反映される。

 ところでシーズンが終わり、7月に入ってから、衝撃的なニュースがあった。敗れたサンダーのスーパースター、ケビン・デュラントが、フリーエージェントとしてウォリアーズに移籍したのだ。その結果、新デスラインナップはバーンズの代わりにデュラントが入ることになる。机上の計算で考えると、以前のデスラインナップ以上に脅威となりそうだが、果たして──。

(*1)
オフェンシブ・レーティング=142点
ディフェンシブ・レーティング=95点

(*2)
オフェンシブ・レーティング=101.5点
ディフェンシブ・レーティング=106.8点

第2回目は、8月下旬を予定しています。お楽しみに。


宮地陽子さん略歴
バスケットボールライター。ロサンゼルス近郊在住。NBAやアメリカで活動する日本人選手、FIBAワールドカップなどの国際大会を取材し、Sports Graphic Numberなどの雑誌や、NBA Japan, Web Sportivaなどのウェブサイトを中心に執筆活動中。著書に『The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。

*スタッツ/STATS:通常の得点、ファウルはもちろん、スコアシートからは拾えない、リバウンド、アシスト、ターンオーバー、スティール、ブロックショットなどの記録のこと。
英語のStatistics・統計学の略語STATSに由来。

コメント/トラックバック

トラックバック用URL:

この記事のコメント・トラックバックRSS

コメントする

※管理人にのみ公開されます

このページのトップに戻る