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宮地陽子のスタッツ四方山話・第13回 上昇を続けるNBAの「ペース」数値

アメリカを拠点に、バスケットボールライターとして活躍中の宮地陽子さんのコラムをお届けします。

第13回目は 上昇を続けるNBAの「ペース」数値 です。

宮地陽子さんの略歴、スタッツの解説を巻末に掲載しています。こちらもご覧下さい。


上昇を続けるNBAの「ペース」数値

 NBAで「ペース&スペース」という言葉が浸透してきたのは3シーズン前くらいからだっただろうか。その数年前から、マイアミ・ヒートやサンアントニオ・スパーズなど、3Pシュートを重視し、攻撃時のスペーシングを意識したバスケットボールをするチームが優勝するようになってきていたが、2014-15シーズンに、3Pを武器とし、しかもペースの速い試合運びで相手チームを翻弄し、支配するウォリアーズが優勝したことで、「これからのNBAはペース&スペースが重要だ」と言われるようになった。そして今では、その流れについていけないチームは時代遅れだと言われるようになったほど、「ペース&スペース」を生かした戦い方はNBAでは常識となってきた。

 「ペース&スペース」のうち、「スペース」にとって重要な3P増加については以前、この欄で取り上げたので*1)、今回はもうひとつの「ペース」をスタッツから検証してみよう。
*1) 宮地陽子のスタッツ四方山話

  まず、スタッツにおける「ペース」とは何なのだろうか。スタッツ上のペースとは、1試合48分あたりのポゼッション数、別の言葉で表現すると攻撃回数のことだ。バスケットボールでは2チームが交互に攻撃権を得るわけで、1試合だけではそのチームの本当のペースはわからないが、シーズンを通しての「ペース」値を出すことで、それぞれのチームの特徴が出てくる。

Suns

 ポゼッション回数の数値は、ペースだけでなく、オフェンス効率やディフェンス効率など、現代バスケットボールのアドバンスド・スタッツに欠かせない基本データだ。バスケットボールのアドバンスド・スタッツは、ポゼッションをボックススコアから計算する方法を考えるところから始まったと言っても過言ではないほどだ。

 その計算の仕方にはいくつか違うやり方があるので、ここでは細かな数式の説明はしないでおくが、おおざっぱに説明すると、試合中の攻撃が切り替わる区切りのときのスタッツをもとに計算するのが一般的だ。たとえばシュートを打った回数や、シュートを外して相手にリバウンドを取られた(=オフェンス・リバウンドをとれなかった)回数、フリースロー数、ターンオーバーの回数だ。

 ポゼッション回数がわかったら、それを(オーバータイム試合のスタッツを揃えるために)48分あたりに計算して出てくるのが、それぞれのチームの「ペース」だ(※FIBA、WNBAやNCAAのように40分の試合のときは40分あたりで計算)。

 たとえば、NBAにペース革命を起こしたとチームのひとつのチームに、2004-05シーズンの、マイク・ダントーニ・ヘッドコーチ下でのフェニックス・サンズがある。「7秒以下」というモットーがあり、相手ディフェンスを構えさせないように、ショットクロックの24秒を使い切るのではなく、攻撃し始めて7秒以内にシュートを持ち込むことを意識していたオフェンスを用いていた。このシーズンのサンズのペースはリーグ最高の98.62だった。つまり、オーバータイムがない48分の試合なら、1試合あたり98~99回の攻撃をしていたのだ。NBAではイリーガル・ディフェンスが廃止され、それにともなって試合のテンポが上がり始めていた時代だった。

 その後、リーグ全体としては少しずつ試合のペースが上がっていたのだが、この数年で、また急速にペースが上がり始めている。たとえば、昨シーズン(2016-17シーズン)のNBAだと、一番ペースが速かったネッツのペースが103.58で.平均ペースが98.73。2004-05に革新的だと言われたサンズのペースは、今ではリーグの平均値になっているのだ。

 最近5シーズン、そして今シーズン序盤戦のNBAのペース最高値と最低値、そして優勝チームの値、平均値を一覧にしてみた。

NBAペースの変遷

ペース表

※データはNBA.comより。  ※2017年12月16日時点

 ペースグラフ

 この数字や表を見るとわかるように、2014-15シーズン以降は毎シーズン、最高値も最低値も平均値も、右肩上がりに上がっている。急速に上昇しているため、今シーズンのここまでのペース平均値が、2012-13シーズンの最高値を上回っているほどだ。

 試合のペースが上がってきたことには、いくつかの理由があると推測できる。ひとつはイリーガル・ディフェンスが廃止され、アイソレーションから相手のディフェンスが崩れるのを待つ攻撃よりも、ディフェンスが構える前に攻撃する戦術をとるチームが増えてきたこと。ハンド・チェキングのファウルが厳しく吹かれるようになってきたことも、選手の自由な動きを促進し、試合のペースが速くなったことに影響しているという意見もある。

 さらに、この3年ほどのペースの上昇に大きく影響を与えたのがウォリアーズだ。いつの時代でも優勝チームのスタイルは、リーグ全体に影響を与えるのだが、2014-15シーズン以降のウォリアーズが「ペース&スペース」を武器にNBA中を圧倒する強さを見せていることで、他のチームもそのスタイルを真似し始めているのだ。

 正反対のスタイルで対抗するという手段もあるはずなのだが、今のところ、ウォリアーズのスピードについていけないチームは、対抗するどころか翻弄されるばかりの状況だ。違うスタイルでウォリアーズを倒すチームが出てくるまでは、まだしばらく、NBAにおけるペースの右肩上がりは続きそうだ。

本コラムは隔月の発行で、次回は来年2月下旬の予定です。お楽しみに。


宮地陽子さん略歴 :バスケットボールライター。ロサンゼルス近郊在住。NBAやアメリカで活動する日本人選手、FIBAワールドカップなどの国際大会を取材し、Sports Graphic Numberなどの雑誌や、NBA Japan, Web Sportivaなどのウェブサイトを中心に執筆活動中。

著書に『The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。

*スタッツ/STATS:通常の得点、ファウルはもちろん、スコアシートからは拾えない、リバウンド、アシスト、ターンオーバー、スティール、ブロックショットなどの記録のこと。 英語のStatistics・統計学の略語STATSに由来。

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