バスケットボールのスコア、得点のスコアリングだけでなく、アシスト、リバウンド、スチール、ファウル、フリースロー、ターンオーバー等のプレーを入力し、STATS / スタッツ(統計データ)として記録するためのサイトです。

宮地陽子のスタッツ四方山話・第14回 トラッキングによるデータ革命

アメリカを拠点に、バスケットボールライターとして活躍中の宮地陽子さんのコラムをお届けします。

第14回目は トラッキングによるデータ革命 です。

宮地陽子さんの略歴、スタッツの解説を巻末に掲載しています。こちらもご覧下さい。


トラッキングによるデータ革命

 ゴールデンステイト・ウォリアーズノヘッドコーチ、スティーブ・カーが、試合後に真っ先に見るいくつかのスタッツがある。そのうちのひとつは、その試合での合計パス回数だ。4年前、ウォリアーズのヘッドコーチに就き、チームのオフェンスを変えようとしていたときに目をつけたスタッツだ。その前のシーズンのウォリアーズは1試合平均パス回数がリーグ最下位の241.9回だった。パスが少ないアイソレーション中心のオフェンスを変えようとしていたカーは、これを300まで増やすことを目標とした。パス300回はだいたい、リーグの平均前後の数字だ。結局、カーがヘッドコーチに就任して1年目のウォリアーズは、平均306.6回のパスを記録した。

 当時、ウォリアーズのアシスタントコーチで、昨季からロサンゼルス・レイカーズのヘッドコーチになったルーク・ウォルトンも、1試合300回のパス推奨派だ。ウォルトンがヘッドコーチになる前シーズン(2015-16)のレイカーズの1試合平均パス回数は274.6。

「バスケットボールでは、疲れているときに誰かが得点してくれるのを期待して立ち尽くしてしまうことがある。あるいは、自分がボールを持っていたら、1対1で攻めようとする。そのほうが簡単だからね。そういったやり方から離れようとしているんだ」とウォルトンは言う。若手選手が多く、選手の入れ替えもあったレイカーズは、ウォリアーズほど急激なパス増加とはいっていないが、それでも昨季は288.4回まで伸ばしている。

 NBAでも高校でも、その間のどのレベルでも、コーチたちはよく「パスを回せ」と指示を出す。ボールや人の動きがあるほうが守りにくいというのは、多くのコーチや選手たちはわかっていることだ。それでも、実際に試合を通してどれぐらいパスが回っているかは、記憶や印象に頼って判断されることが多い。そこに出てきたのが、1試合あたりのパス回数のデータだった。目標を達成できていたかもわかりやすい。

 ただし、多ければいいとは限らない。昨シーズン、最も多くパスを回していたのはフィラデルフィア・セブンティシクサーズで352.4回だったが、成績はリーグ全体で下から4番目の28勝54敗、逆にパスの少ないほうから6チームは勝率5割以上のチームが並んでいた。カーが目標をリーグ最多ではなく、300に設定したのも、そういったことを考えてのことだった。

2016-17シーズン チームトラッキング(パス)

 それでは、NBAは試合中のパスの数をどうやって記録しているのだろうか? 前回取り上げた「ペース」のように、ボックススコアにある数字から計算できるデータではない。かといって、毎試合専属スタッフを置いて、パス1本ずつカウントしているわけでもない。

Arving1

 実は、NBAアリーナの天井には、試合中の選手とボールの動きを記録するためのカメラが取り付けられている。データは分析プログラムを通し、さまざまな形でデータとして出されている。NBAでは5シーズン前、2013-14シーズンから本格的に導入され、コートサイドの記録担当者がつけているボックスコアとは別に、選手評価や戦術分析などのために活用されている。

 このトラッキングデータをつけるようになってから、NBAのスタッツ分析は幅の広がりを見せている。これまでではアシスタントコーチたちが独自にカウントしたり、あとからビデオを見直してチェックしていたようなデータが、そんな手間をかけなくても、試合後、すぐにわかるようになったのだ。以前は記録しようとしなかったようなデータもわかるようになった。

 たとえば選手が試合中に動く距離や、そのスピード、ボールにタッチする回数、キャッチしてからシュートを打つまでの時間がわかるようになった。また、シュートを打ったときにディフェンスが近くにいたかどうかも記録できるようになったため、ボックススコア上では同じようにフィールドゴール成功1本とつけられる数字でも、それがノーマーク状態で決めたのか、ディフェンスにマークされながら決めたのかといったことも記録として残されるようになった。

 具体例をあげて数字を抜き出してみよう。ステフィン・カリー(ウォリアーズ)とカイリー・アービング(セルティックス)とジョー・イングルス(ジャズ)の3P成功率をディフェンスとの間隔別に表にしてみた。どれだけディフェンスにマークされても3Pシュートを決める能力が抜け出ているカリーと、2月25日時点で3P成功率リーグ首位のイングルス、そして難しいショットを決める勝負強さに定評があるアービングの3人を比べてみようというわけだ。

 カリーが抜け出ているのは、ディフェンスが2フィート(約61cm)未満、つまり間近で密にマークされているときだ。カリーが37.5%なのに対してアービングは30%、イングルスは密着されたときには1本も打っていない。ディフェンスが6フィート(183cm)以上離れた、ノーマーク状態のときもカリーは強い。ほぼ5割に近い48.7%の確率で決めている。逆に、カリーが最も苦手としているのは、ディフェンスが2-4フィート(61-122cm)の距離にいる、ややタイトなディフェンスのとき。アービングはこの3選手の中で一番高い39.4%、イングルスが33.3%なのに対して、カリーは30.3%だ。イングルスはこの3人の中では一番背が高いだけに、相手が近づいてきても有利に打てるということかもしれないが、カリーとほとんど変わらない身長のアービングの4割近い成功率はさすがだ。

ディフェンスとの間隔別3P成功率(2017-18)

ディフェンスとの間隔カリーアービングイングルス
2フィート(61cm)未満37.5%30.0%  ──
2-4フィート(61-122cm)30.3%39.4%33.3%
4-6フィート(122-183cm)42.1%42.6%40.8%
6フィート(183cm)超48.7%37.2%46.8%
合計42.8%39.9%44.2%

(2018年2月25日時点)

シュート関連のトラッキングデータ

ステフィン・カリー

カイリー・アービング

ジョー・イングルス

 このように、トラッキングデータを記録するようになってから、NBAのデータの幅は大きく広がった。一般公開されているのは記録しているデータの一部にすぎないのだが、それでも多くの、興味深いデータがあふれていて、試合の場面を思い出しながら調べると、いくら時間があっても足りないぐらいだ。

本コラムは隔月の発行で、次回は4月下旬の予定です。お楽しみに。


宮地陽子さん略歴 :バスケットボールライター。ロサンゼルス近郊在住。NBAやアメリカで活動する日本人選手、FIBAワールドカップなどの国際大会を取材し、Sports Graphic Numberなどの雑誌や、NBA Japan, Web Sportivaなどのウェブサイトを中心に執筆活動中。

著書に『The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。

*スタッツ/STATS:通常の得点、ファウルはもちろん、スコアシートからは拾えない、リバウンド、アシスト、ターンオーバー、スティール、ブロックショットなどの記録のこと。 英語のStatistics・統計学の略語STATSに由来。

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