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宮地陽子のスタッツ四方山話・第15回 「ノー・リバウンド、ノー・リング」は時代遅れ?

アメリカを拠点に、バスケットボールライターとして活躍中の宮地陽子さんのコラムをお届けします。

第15回目は 「ノー・リバウンド、ノー・リング」は時代遅れ? です。

宮地陽子さんの略歴、スタッツの解説を巻末に掲載しています。こちらもご覧下さい。


「ノー・リバウンド、ノー・リング」は時代遅れ?

 昔から、バスケットボール界の名将たちは「優勝するために一番大事なのはリバウンドだ」と説いてきた。たとえば、ロサンゼルス・レイカーズとマイアミ・ヒートを合計5回のNBA優勝に導いたパット・ライリーは「ノー・リバウンド、ノー・リング(リバウンドを取らなければ、優勝指輪も取れない)」と強調していたし、テネシー大女子チームを8回の全米チャンピオンに導いた故パット・サミットは「オフェンスによってチケットを売り、ディフェンスによって試合に勝ち、リバウンドによって優勝する」と言っていた。

 それがなんと、NBAでは数年前から「リバウンドは取らなくていい」と言い出すコーチたちが出てきた。正確にはリバウンドすべての価値を否定しているわけではなく、取らなくてもいいと言っているのはオフェンス・リバウンドのことだ。決して奇をてらった策としてではなく、実績あるコーチたちが、シーズンを通しての戦術として用いていて、結果も出している。

リバウンド1

 たとえば、現ロサンゼルス・クリッパーズHCのドク・リバースがその一人だ。5年以上前、ボストン・セルティックスのヘッドコーチだった頃から、オフェンス・リバウンド信奉者ではないことを明言。2013年にロサンゼルス・クリッパーズに移ってからも、その信念は変わっていない。オフェンス・リバウンドの数はまったく気にしていないという。

 サンアントニオ・スパーズを5回NBA優勝に導いたグレッグ・ポポビッチHCも同じく、オフェンス・リバウンドはどうでもいいと考える一人だ。スパーズのコーチたちは選手たちに「一生オフェンス・リバウンドを取らなくても構わない」とまで言っているのだという。

 その理由について、リバースHCは、こう説明する。

「オフェンス・リバウンドを取らなくても、その分相手のトランジション・オフェンスを止めれば、オフェンス・リバウンドを取ったときよりも試合に勝てる。それは統計上でも出ていることだ。」

 攻撃側から見ると、相手ディフェンスが準備できていないときに攻めるトランジション・オフェンスは得点効率が高い攻め方だ。得点効率の考え方が浸透してきたことで、以前よりも積極的に走るチームも増えてきた。そうなると、ディフェンスとしてはそこを抑えることが重要になってくる。味方がシュートを打ったときに、5人全員でオフェンス・リバウンドを取ろうと飛び込めば、リバウンドを取れる確率は少し上がるが、かわりにリバウンドを取れなかったときに、相手の速攻を止めるのが後手にまわってしまう。それよりはオフェンス・リバウンドを捨てて、5人全員、あるいは1人を残して4選手が少しでも早くディフェンスに戻るようにしたほうが、メリットが大きいというわけだ。

 さらに、最近の3Pシュート増加の影響もあるという意見もある。ビッグマンでも外からシュートを打つことが求められるようになり、ひと昔前までは必ずゴール下にいたビッグマンが、外でポジションを取ることも増えてきた。そうなると、オフェンス・リバウンドを取るのはゴール下にいたときほど簡単ではない。しかも、外から打ったシュートは大きく跳ねることが多く、中に飛び込めば取れるものでもなくなってきた。

 オフェンス・リバウンドの減少傾向は、実際にNBA全体のスタッツにも表れている。NBA平均のオフェンス・リバウンド取得率(外れたシュートの本数に対して、オフェンス側がリバウンドを取った割合)を比べると、20年前(1997-98シーズン)は31.4%だったのが、10年前は26.7%に減り、終わったばかりの2017-18シーズン(レギュラーシーズン)は22.3%と、明らかに下がってきている。

 チームごとに見ても、今季最もオフェンス・リバウンド取得率が高かったオクラホマシティ・サンダーでも27.7%と、20年前の平均にも達していない。また、強豪チームを見ても、リーグ最高成績でレギュラーシーズンを終えたヒューストン・ロケッツは21.3%(リーグ21位)、東カンファレンス首位のトロント・ラプターズが平均を少し上回る23%(リーグ11位)、西カンファレンス2位のゴールデンステイト・ウォリアーズは21.1%(リーグ23位)で、オフェンス・リバウンド取得率が勝敗に影響していないこともわかる。

 それは毎試合が生き残りをかけた真剣勝負のプレイオフでの試合でも同じことだ。2016-17チャンピオン、ゴールデンステイト・ウォリアーズは、プレイオフの試合でのオフェンス・リバウンド取得率が22.4%で、プレイオフに出た16チーム中9位だった。少なくともオフェンス・リバウンドに関しては、取らなくては優勝できないという神話は崩れてきている。

 もっとも、この傾向はまだ過渡期にあるという見方もある。オフェンス・リバウンドを完全に捨てるやり方に抵抗を感じるコーチたちもいるからだ。彼らは相手の速攻を警戒しながらも、効率的にオフェンス・リバウンドを狙う方法を模索している。リバースの後にセルティックスのヘッドコーチに就いたブラッド・スティーブンスHCもその一人。就任直後から、時と場合を選んでオフェンス・リバウンドも取りに行くというチームの方針を打ち出している。

「トランジション・ディフェンスとのバランスを取ることができれば、その中でオフェンス・リバウンドも狙い続けていきたい」とスティーブンスは言う。

 すでに、最近はオフェンス・リバウンドとトランジションでの失点の間には、以前ほどの相関性はないという統計結果も出てきている。それが一時的なものなのか、あるいはオフェンス・リバウンドとトランジション・ディフェンスを両立させるための作戦が浸透してきた結果なのかはもう少し状況を見極める必要がある。いずれにしても言えることは、統計をもとにした理論も生き物だということ。効率のいい戦い方も、それに対する対応策が徹底されるようになれば、効率がいいままであり続けるとは限らない。コーチたちが、少しでも有利になることを求め続ける限り、理論もスタッツから導かれる統計も、変化し続けていくことは、スタッツからゲームを分析するときに頭の片隅に置いておくべきだろう。

本コラムは隔月の発行で、次回は6月下旬の予定です。お楽しみに。


宮地陽子さん略歴 :バスケットボールライター。ロサンゼルス近郊在住。NBAやアメリカで活動する日本人選手、FIBAワールドカップなどの国際大会を取材し、Sports Graphic Numberなどの雑誌や、NBA Japan, Web Sportivaなどのウェブサイトを中心に執筆活動中。

著書に『The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。

*スタッツ/STATS:通常の得点、ファウルはもちろん、スコアシートからは拾えない、リバウンド、アシスト、ターンオーバー、スティール、ブロックショットなどの記録のこと。 英語のStatistics・統計学の略語STATSに由来。

 

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