MENU

宮地陽子のスタッツ四方山話・第17回 気象学者が作ったNCAA関係者愛用のスタッツサイト~天気予報とスタッツ分析の共通点とは?

アメリカを拠点に、バスケットボールライターとして活躍中の宮地陽子さんのコラムをお届けします。

第17回目は 気象学者が作ったNCAA関係者愛用のスタッツサイト~天気予報とスタッツ分析の共通点とは? です。

宮地陽子さんの略歴、スタッツの解説を巻末に掲載しています。こちらもご覧下さい。


 

気象学者が作ったNCAA関係者愛用のスタッツサイト

~天気予報とスタッツ分析の共通点とは?

 NCAAバスケットボールをスタッツ面から深く知りたい人にとって、お役立ちのスタッツサイトといえば、“ケンポム” ( https://kenpom.com )だ。NCAAディビジョンⅠ全351チームのランキングや、所属選手のアドバンスド・スタッツが掲載されていて、シーズン中は毎日更新されている。ファンやメディアだけでなく、試合を戦う当事者のコーチたちも利用する人気サイトで、“NCAAバスケットボールのバイブル”とまで言うコーチもいるほどだ。何しろ、NCAAはディビジョンⅠだけでNBAの10倍以上のチーム数があるのだから、カンファレンス外の対戦相手となると特徴も何も知らないことも多い。特に対戦相手が決まってから試合までの期間が短いNCAAトーナメントの時期には、コーチたちはケンポムで対戦相手のスタッツを研究して対応策を練る。

 今でこそ、NCAA関係者で知らない人がいないぐらいの有名サイトになったケンポムだが、元はといえば一個人の趣味のページで、作成者のケン・ポメロイも、このサイトを始めた頃にはバスケットボール界と何のつながりもない一ファンにすぎなかった。 現在44才のポメロイが生まれ育ったのは、大学バスケットボールが盛んな東海岸のワシントンDC。バージニア工科大で土木工学の学位を取得し、卒業後には数年間、道路設計の仕事をしていたという。その後、ワイオミング大学院で大気科学の修士を取得し、その後はアメリカ国立気象局に勤務した。

 彼がケンポムのサイトを登録したのは1999年のこと。ケンポムというゴロのいいウェブサイト名は、単に彼の名前を短縮したにすぎない。登録した当時は、何のサイトにするかは決めていず、初期にはマニアックなものも含めて様々なスポーツの視聴率を掲載するサイトだったのだという。根っからのスポーツ好きで、数字好きだったようだ。野球にはあまり興味はなかったというが、野球界にデータ革命を起こしたマネーボールの動きには興味を持ち、好きな大学バスケットボールのスタッツに注目し始めたという。

Temple大学2

 そんなポメロイと、ケンポムのサイトの運命を変えたのは、今から14年余り前、2004年のこと。空軍士官学校の試合中継で、解説者が同チームのディフェンスを絶賛していた。しかし、ポメロイはその意見に同意できなかった。確かに毎試合の失点は少なかったが、それは試合のテンポを落として両チームの攻撃回数を減らしていたことによるもので、ディフェンスは決して全米トップクラスではないと考えたからだった。

 2004年といえば、バスケットボールにおけるアドバンスド・スタッツの父、ディーン・オリバーが、著書『バスケットボール・オン・ペイパー』の中で、攻撃回数を揃えてスタッツを比較するオフェンス効率(100ポゼッションあたりの得点)やディフェンス効率(100ポゼッションあたりの失点)の計算方法について書いた約2年後。まだ、バスケットボール界全体に今ほど、“ペース”や“効率”といったアドバンスド・スタッツの考え方が浸透していなかったのだ。 そこでポメロイは、持論を証明するために大学バスケットボールのスタッツを集め、ペースを考慮したオフェンス効率やディフェンス効率のスタッツを計算し、ケンポムのサイトに掲載し始めた。

 参考までに、2003-04シーズンの空軍士官学校のスタッツをケンポムのサイトで調べてみよう。シーズン成績22勝7敗、ケンポムの最終全米ランキングでは36位のチームだった。ディフェンス効率はというと96.0で、全米43位。確かに平均よりは上だが、決して全米トップレベルというわけではなかったことがわかる。

https://kenpom.com/index.php?y=2004

 当時、気象学者としてモンタナの国立気象局に勤めていたポメロイにとって、ケンポムのサイト作成は1日の仕事が終わった後や休日の趣味だった。しかし、まだディビジョンⅠのバスケットボール全体を網羅するアドバンスド・スタッツを扱っている媒体がほかになかったこともあり、5~6年もするうちに、彼のサイトはNCAAコーチやメディアなど関係者にもよく知られるようになった。

 たとえば、早いうちから彼のサイトのデータに注目し、試合に生かしていたコーチの中に、現ボストン・セルティックスのヘッドコーチ、ブラッド・スティーブンスがいる。当時、バトラー大のヘッドコーチだったスティーブンスは、大学バスケットボール界では早くからアドバンスド・スタッツを用いたスタッツ分析をコーチングに取り入れていた。バトラー大は、ディビジョンⅠの中ではミッドメジャーと呼ばれる、中規模の非名門大学だ。スポーツ部門に潤沢な予算をかけられるわけではなく、トップレベルの選手を勧誘するだけの知名度や実績もない。そういった制限があるなかで、スティーブンスは強豪校相手にも対等に渡り合えるチームを作って、コーチとしての頭角を現してきた。そのための武器のひとつが、スタッツ分析を活用した対戦相手研究だった。2010年にはNCAAトーナメントで決勝まで進出し、決勝では敗れたものの、名門デュークを相手に2点差(59対61)の激戦を戦っている。後にスティーブンスHCは、この試合に向けて戦術を練るために、ケンポムの攻守効率のスタッツを活用したことを認めている。

 気象学者が大学バスケットボールのスタッツサイトを運営していると聞くと、専門分野からまったくかけ離れたことのように思えるが、ポメロイによると、気象学者の仕事と、ケンポムでのデータ分析には共通点があるのだという。どちらも、現在の状況を分析して、そこから将来を予想するという点だ。

 今年2月、ルイビル・クーリエ・ジャーナル紙の取材に答えて、彼は次のように語っている。

「将来を予想するということは、自分の予想能力の限界を学ぶことでもあります。それなのに、多くのスポーツ予想では、その視点が欠けていることが多いように思います。予想には限界があるということを考えずに、予想したことが当たればリツイートし、間違っていたらその予想を忘れて誰も気にかけなくなる。その点で、私は他の多くの人とは違った視点を持っています。

 たとえば、私のサイトでは単に試合の得点を予想することはなく、チームが勝つ確率だけを記しています。勝負にはアップセットもありますから。そのことで混乱する人もいます。予想を見て、次の12試合でチームがアンダードッグだと予想されているのを見て、12連敗すると考えてしまうのですが、実際にはそうではありません。確率によって、そのうち、いくつかの試合には勝つこともあるでしょう」 たとえば、天気予報で翌日の降水確率が50%を超えていても雨が降らないこともあるのと同じように、アンダードッグでも勝つことがある。それが、予想の限界だというわけだ。

 ポメロイは少し前に国立気象局を辞め、今ではケンポムのサイト運営のほか、スタッツ関連のコンサルタント業を仕事にしている。NBAチームやNCAAチームと契約して仕事をすることもあるほか、メディア媒体から依頼されて、大学バスケットボールについてスタッツ面からのコラムを書いたりもする。 現在44才のポメロイの人生は、この15年ほどで大きく変化し、ケンポムのサイトは大学バスケットボール界に大きな影響を与えた。たとえ一ファンが作ったものであっても、役に立つと思えば積極的に取り入れていったコーチたちの貪欲さも、大学バスケットボール界の進歩を促進させた。 15年前とは立場が変わり、名前も知られるようになったポメロイだが、今も以前と変わりなく大学バスケットボールのファンだと言う。そして、彼がファンとして試合を見るときには、自分のサイトのスタッツを愛用しているのだという。

「実際のところ、私は誰よりも自分のサイトを活用していると思います」とポメロイは言う。趣味が仕事になり、スポーツの発展に影響を与えながら、趣味でもあり続ける。その距離感が、またいい。

本コラムは隔月の発行で、次回は10月下旬の予定です。お楽しみに。


宮地陽子さん略歴 :バスケットボールライター。ロサンゼルス近郊在住。NBAやアメリカで活動する日本人選手、FIBAワールドカップなどの国際大会を取材し、Sports Graphic Numberなどの雑誌や、NBA Japan, Web Sportivaなどのウェブサイトを中心に執筆活動中。

著書に『The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。

*スタッツ/STATS:通常の得点、ファウルはもちろん、スコアシートからは拾えない、リバウンド、アシスト、ターンオーバー、スティール、ブロックショットなどの記録のこと。 英語のStatistics・統計学の略語STATSに由来。

コメント/トラックバック

トラックバック用URL:

この記事のコメント・トラックバックRSS

コメントする

※管理人にのみ公開されます

このページのトップに戻る